ガラララ…
「鈴ちゃん、来たよ~!…あれ?鶴ちゃん、鈴ちゃん寝てるよ?」
「…さっきまで検査だったから疲れたんだろ、起こしてやるな」
「残念だな…たくさんお話しようと思ったのに…。…ねぇ鶴ちゃん、鈴ちゃんいつ退院できるのかな…?」
「…わかんね。徐々に良くなってるみたいだけどよく呼吸乱れるし暫くは…」
「…そっか…ぼく、早く鈴ちゃんと遊びたいな!外で走り回るの!鈴ちゃん可愛いから捕まえたら離してあげなーい♡」
「俺も参加していいなら2人とも捕まえて俺の抱き枕な♡」
「えぇ~!鶴ちゃん寝相悪いからやだ~!!」
「しっ、鈴が起きる……もう6ヶ月もこんな所にいるの嫌だよな鈴…」
「…鈴ちゃん、早く良くなって…」

眠っていたのだけど、何故か声は聞こえていて…2人の兄の声が悲しそうで辛そうで。俺の耳に入ってると知らない兄たちは病室から出ず俺の頭を撫で続けてくれた。眠りに再び落ちるまでずっと…。




小学校低学年までは周りの子と一緒で普通だったと思う。三年生のマラソン練習の時、いきなり呼吸ができなくなって苦しくて血も吐いて…初めて救急車に乗った。いつの間にか意識を飛ばしてたみたいで目が覚めたら兄二人が騒がしくてびっくりしたっけ。5つ上のつづりは中学にあがってから中世的な見た目になった。たまにお姉さんって呼ばれてる。…あの話し方もあるんだろうけど。8つ上の連鶴は勉強で忙しくても俺やつづりと遊んでくれる。次期生徒会長に推薦された…みたいな事言ってた気がする。勉強できるし運動も得意だし気遣いできるし身長も高くて…俺のあこがれ。絶ッッッ対本人には言わないけど。

二人は俺が入院してから毎日学校帰りに病室に寄って学校の話をしたり勉強を教えてくれた。すぐ元に戻れるように。土曜と日曜は二人のどちらかが一日中俺と一緒にいてくれる。今思えばかなり甘やかされていたし溺愛度が異常だったと思う。それが普通だと思ってたから素直に甘えたしかなりわがまま言ってた。個室だから暇だったしね。平日の昼間は看護師さんに本棚のところまで連れて行ってもらってずっと本を読んでた。二人に本の知識教えると褒めてくれるしそれが嬉しかった。


つづり「鈴ちゃん、来たよ~♡体調どう?」

土日は大体がつづりが来て日曜の夕方から連鶴が顔を出す事が多かった。その日もつづりだけだったかな。両親も来てくれるけど仕事を抜け出して来てくれるから長くはいれないようだった。つづりと連鶴がいたから寂しいとか思ったことないけどね。

鈴「…うん。普通。いつもと一緒だよ。…その袋何?」

いつも持ってくるのはコンビニやスーパーのビニール袋。今日は珍しい茶色い紙袋店のロゴも見慣れないものだった。

つづり「気づいちゃった?ふふ~ジャジャーン☆たい焼きだよ!!最近学校の近くにたい焼き屋さんができてね?美味しかったから鈴ちゃんに買ってきたの」
鈴「…甘いの苦手なの知ってるのにそういうことするんだ…つづりひど…カラ〇ーチョとか激辛スナックとかのほうが嬉しいのに…」
つづり「あれが好きとか鈴ちゃんの味覚どうかしてると思う…僕あれ二度と買わないからね…」

先週来た時はリクエストした激辛スナックの唐辛子Max味を買ってきてもらった。俺が袋を抱えて食べてたら余程美味しそうだったのか二人とも食べたいと言ってきた。食べた瞬間二人とも病室を飛び出して水を買ってがぶ飲みしたらしい。その後『こんな刺激物を食べちゃダメ!』とスナックを取り上げられてしまった。俺はもっと食べたかったのに。

鈴「あれくらいが丁度いいのに…たい焼き甘そうだもん。」
つづり「甘いもの食べると元気になるよ?だまされたと思って食べてごらん?餡子とカスタードどっちがいい?」
鈴「……餡子」

意地でも食べさせたいのか断れなさそうだった。全く引いてくれない…仕方なくまだ温かいたい焼きを受け取る。食欲をそそるいい匂いは認めるけど…。

鈴「いただきます…」
つづり「はーい♡召し上がれ♡」

ニコニコしながら俺が口に入れるのをガン見してくるものだから食べずらさを感じながら一口。確かに甘いがそれだけじゃなくて…

鈴「……美味しい」
つづり「でしょ~!!?絶対これなら鈴ちゃんも食べられると思ったの!鶴ちゃんのも食べちゃっていいからね♪」
ガラララ…
連鶴「あ、なんかうまそうなの食べてる。俺のは?…鈴が餡子食べてる!!!?…ほっぺに餡子つけて~…可愛い~~~♡♡」

入ってきた連鶴が俺のほうに駆け寄ってきて写真を撮りだす。撮り終わったらわしゃわしゃ俺の頭をなで繰り回して抱きしめる。苦しい。

つづり「鶴ちゃん来るなら言ってよ!あと鈴ちゃんの写真僕にも送って」
連鶴「やなこった。俺のたい焼き無かったことにしようとした罰だね」

俺は始まった二人の言い合いを連鶴の腕の中で聞きながらため息をついた。たい焼き食べたいのに…

鈴「皆で食べよ…?つづりの事だから6つくらい買ってきてるんでしょ…?」

二人の言い合いと止めてその後は3人で話をしながら出来立てのたい焼きを食べた。病院で唯一の楽しい時間。検査とか手術とか発作とか、苦しいし痛い事がたくさんあったけど兄弟でいるときはすごく楽しかった。


すぐに退院することはできなくて結局のところ2年間入院していた。学校に戻れたのは小学5年生の9月。以前より肌が白くなって身長が低い俺をみて初日は皆驚いていた。何を話していいのか俺も周りもわからなかったから最初は軽く挨拶したくらいで授業に参加。連鶴とつづりのおかげで勉強がわからないということはなく…というかむしろ中学校2年生くらいまでの勉強を叩き込まれていたようでたまたま行うことになっていたテストで1位を取ってしまった。話す話題ができたことですぐに友達ができ早い段階で元の学校生活に戻ることができた。肌の白さも徐々に戻った。残念ながら体育やプールは全部見学で、できるのは体力測定の握力とか長座体前屈くらいだったけど。

そのまま中学校に進んで親友と呼べる友達もできた。

きっかけはつづりが事務所にスカウトされてモデルになったから。医大に進み一人暮らしを始めた連鶴と俺は長続きするわけないと茶化していたが人気モデルにまでなってしまったようで何回も雑誌の表紙を担当していた。その友人との最初の会話が『汐屋燕の弟だよな!!?俺すげー好きで!!』だった。いいやつだけど一度興奮すると手が付けられないマシンガントークを始める変な奴。話しがあうし趣味も同じで特に相談したわけでもないのに高校も専門学校も一緒で驚いたっけ。運動を極力避けた俺は発作を起こすことも減り定期的に検診に行くだけで済むくらい回復した。高校のとき一度検査入院したことがあったけどそれ以外は何もなかった。

そのかわり、俺よりつづりのほうがよく病院にお世話になっていた。詳しい事を俺に言ってくれないのは兄のプライドなのだろうか。

鈴「つづりまた無理したの?ちゃんと休めって言われてるのに」
つづり「無理はしてないよ~、まだいけるかなと思ったら倒れちゃったってだけ」
鈴「それを無理したっていうんでしょ~・・・連鶴に怒られても知らないからね…」
つづり「それはやだぁ・・・鈴ちゃんにこうやって怒られるなんて思わなかったなぁ」

なんて毎回話した。昔は逆だったのにね。


雑貨デザイナーになるのが夢になっていた俺は二年制のデザインの専門学校に進学した。学科は違ったが親友と同じ学校で夢の話をしながら毎日一緒に帰った。いつものように親友と待ち合わせをして駅まで歩いて向かっていた。仕事終わりのサラリーマンが居酒屋に入っていきにぎやかな声と酒や焼き鳥の匂いが周辺に広がる。明日提出の課題のあれこれを考えているとき静かだった隣が口を開いた。

「あ、これ送っといたから」

親友が忘れてたといいながらある紙を見せてくる。…フリプロアイドルオーディション?

鈴「…は?はぁっ!!?送ったって…お前何して…勝手に…」
 「大丈夫だって!お前汐屋燕の弟だし顔いいしモテるしいい声してんだから☆」
鈴「そういう問題じゃない!!アイドルなんて興味ないし俺が運動できないの知ってんだろ!?もし通ったらどうすんだよ・・・ないとは思うけど」
 「いやいや、俺はわかる。お前はアイドルになる!!それにもう体調ずいぶんいいんだろ?少しぐらい体力つけないとだし丁度いいだろ☆」

正直訳が分からなかった。勝手に送った経緯もこのどこから出てくるのかよくわからないこいつの自信も発言も。まぁでもこんな顔どこにでもいるし落選して終わりだろうから大丈夫…なんてそのときは思っていた。

数日後、書類審査が受かった連絡と面接のお知らせ電話が来たことで絶望することになるんだけど。

面接の電話が来た後すぐに親友に連絡すれば

『ほらな!!俺の言ったとおりだろ!?お前が落ちるわけねーじゃん☆絶対受かれよ~☆』

と浮かれた声で一方的に電話を切られてしまった。絶対ぶん殴る…。


受かってしまったものは仕方ないやれるだけやるか…と気づけば面接当日。特に緊張もせず自分の順番を待っていた。俺くらいの年齢の人もいれば俺よりずっと若い…高校の制服で面接に来ている人もいる。今人気のアイドルNovaが所属する事務所というのもあってかなりの応募数があったのだろう。顔立ちが整い世にいうイケメンや美男子が多かった。面食い女子がこの場にいたらたまらないだろう。個人面接らしく予定よりかなり時間がかかっていた。面接が終わったものが控室に帰ってくると何人も目に涙を浮かべているのが気になった。そんなにキツイ事を言われたのか?と最初は思っていたのだがそうではないようで『生きててよかった…』と感無量なよう。落ちる落ちない云々の話で涙を流しているわけではないらしい。

ついに俺の番がまわってきて部屋の前に立つ。すごくなりたい訳でもないので緊張もせずただ話せばいいだけ…そう思っていたのだが。

鈴「失礼致します」

コンコンコンとノックして中に入るとそこにはこの面接を意欲的に受けに来た全員が夢見ているであろうトップアイドルNovaとNovaの同期でソロの御器谷椿が座っていた。いくら芸能界に興味がない俺でも知ってるビッグネーム。流石に声を出すことはなかったがど素人だらけのこんな面接も担当するの!?と驚きを隠せなかった。俺でも目の前の3人のオーラに圧倒されてしまうくらい存在感が強かった。よくライブに行く友人がいう『キラキラしてる』が理解できてしまうくらい。

晄「ふふふwww何回も面接してるけどやっぱり皆驚いてくれるよね、面白いwwww」
朔「もう晄くん、面白がったらだめだってwww」
晄「朔も笑ってるw」
朔「晄くんのせいだよw」

Novaが俺の前で喋ってる…とどうしていいのかわからず見ていた。…テレビで見ても思っていたがこの二人距離近くない?

椿「ごめんね、晄笑いの沸点低くて。どうぞ座って汐野鈴くん」

二人の扱いに慣れているようで御器谷椿が俺を座るように促す。はい、失礼しますと返事をし目の前の椅子に座る。このメンツに面接してもらえるなら憧れの人物かファンであれば受かろうが受からなかろうが満足か…あの涙も理解できる。

やっと落ち着いたのか白咲晄が口を開く。

晄「ふ~…ごめんね笑っちゃって。面接なんて堅苦しい名前だけどお喋りしに来たと思って気軽に話してくれてかまわないよ」
朔「タメ口でも構わないくらいゆるゆるだと思って」
椿「朔、それはいくらなんでも…」
朔「鵜呑みにされちゃうと困るけどそれくらいの気軽さだと思ってもらえたほうが長くやっていくかもしれない人にはいいんじゃない?」
晄「この面接は技術面というよりその人の考え方とか性格とか…内面を見るためのものだから君のことを僕たちに教えてね」

そういうと言葉通り、お喋りをするように緩く面接が始まった。

晄「まず最初に…応募した動機教えてほしいな。あ、素直に言ってもらってかまわないよ。僕たちに気を使って憧れでしたとか言わなくても全然いい」
鈴「…同じ学校に通っている友人に勝手に応募されました。友人はどういうつもりで応募したのかわかりませんが俺がアイドルになれる器とは思えないしよくいる顔だと思っているので書類審査の段階で落ちると思ってました。受かってしまったものは仕方ないし面接はちゃんと受けようと思い下調べや芸能界について少しは勉強してきました。…まぁ…面白そうな業界だな…とは思っています。」

最初はそれっぽい事を言おうかとも考えていたがなりたくて来たわけでもないし本当に素直にぶっちゃけた。これで落ちたなと確信していたんだけど。

朔「ふふ、だから君緊張してないんだね?他の子たちは驚いて尻餅つく子とか入らずに扉閉めちゃうとかだったのに君全然平気そうなんだもんw」
椿「Novaがいるとは思わないから…誰を前にしても緊張しないの?」
鈴「そうですね、緊張はあまりしないです。…あ、でも病院の先生は緊張しますね」
晄「確かに診断聞くときとか怖いかもね、健康診断とか」

手術の経過とか聞くのが緊張するっていう話だったんだけど・・・まぁいいか。

朔「そっか、友人か…その友人はどんな人?」
鈴「え?あぁ…中学からの付き合いで趣味と価値観がよく合うんです。専門まで同じくらい。自分の好きなものに素直で一度エンジンがかかるとマシンガントークが止まりません、クラスのムードメーカーなところがあります」
晄「へぇ、人の事よく見てるんだね鈴くん。どんな子かなんとなく想像できる、すごく元気な子なんだな~って伝わるよ」

白咲晄は関心したように目の前に机に広げてある用紙に記入していく。一方の炬闇朔は寂しいような羨ましがるようなよくわからない微妙な顔をしていたけれど。

椿「どうして仲良くなれたの?」
鈴「俺の兄が他の事務所でモデルをしていてその兄のファンだったらしいです。勝手に応募した理由も『汐屋燕の弟だから絶対いける』らしいです。」
晄「燕の弟さん?…あぁ確かに少しだけ雰囲気似てるかも。同じ雑誌の撮影で挨拶したくらいだけど可愛い顔してるお兄さんだよね」
雀「そうですね、一緒にでかけてもお姉さんと声を掛けられるほうが多いです」
晄「鈴くんはそういう芸能界に近い仕事したことあるの?例えばお兄さんとモデルしたとかちょっとした舞台に参加したとか」
鈴「高校のときに声優を少し。監督が気に入ってくれたようで主役ではありませんがメインキャラクターの声を担当させていただきました」

高校のときこれも親友に応募されたやつ。この仕事はすごく楽しくて監督もいい人だった。このまま声優を目指さないか?なんて言われたけどデザイナー志望だったし申し訳ないけどお断りした。

朔「うん、確かに聞き取りやすいいい声してるもんね。声のお仕事…例えばラジオとか歌とかトークとかアイドルになると声たくさん使うんだけどそういうの好き?」
鈴「昔から声には少し自信があります。話をするのも好きですし歌も好きです」
晄「そっかそっか♪…自分の性格を分析してもらってもいい?さっきの友人みたいに」
鈴「…人を茶化すのが好き、舌が異常、面倒見がよく世話焼き…冷静…とまわりには言われます。」
椿「ふふ…舌が異常って何?」

これまでほぼ無表情だった御器谷椿が笑った。そういえばこの人テレビでも笑うことあまりない気がする。

鈴「辛いものが好きで。小さい頃一番好きなお菓子が激辛スナックの唐辛子MAX味でした」
朔「えっ、アレ食べられたの・・・?」
椿「俺匂いだけでダメだったよ…確かにそれは…w」

あれそんなに辛かったっけ…全然余裕だったんだけど。兄には言わなかったが退院した後あのスナック菓子にタバスコを大量にかけて2袋ぺろっと平らげた。タバスコをかけても辛さが足りた感じはしなかったのだが。

晄「ふふ、なるほどね?…ここまで僕たちと話してみてどう思った?僕たちに関してでもいいしアイドルという職業についてでもいいよ」
鈴「テレビに出てる人ってもっと上の存在という感じがしてたんですけどこうやって話をしてみると普通の人間なんだなと思いました。…興味のない俺でもアイドル特融のオーラとかキラキラは感じます。心底楽しんで仕事してるのが面接をしていてわかりましたし、何気ない質問にも俺を見る貴重な材料になってるのがわかって面接でしたが面白かったです。最初はめんどくさかったし早く終われとも思っていましたが興味が出てきました、アイドルの見る景色に。」

考えていたわけではないが自然にそう話していた。自分でも驚いた。へぇそう思ってたんだ、と客観的に思ってしまうくらい。俺の答えを聞いた三人の表情が少し変わった気がした。特に御器谷椿。無表情でつまらなそうな目をしていたが今はそんな目ではなく好奇心というか期待というかプラスな感情をもった目。

椿「…この仕事に少しでも興味持ってもらえたなら嬉しいよ。…これだけはしたくないって思う仕事とかあったりする?写真撮影とか演技とかファンサとか色々あるんだけど…」
朔「人によって得意不得意あるからね…俺は最初のころファンサ苦手だったな…w」
鈴「…そう…ですね…露出過多な撮影はできないです。腹部が多く出るようなものはちょっと…あと体力がないし運動もできないのであまり過激なダンスはできないです」

幼少期に行った手術の痕。それだけは誰にも見られたくなかった。連鶴や燕にも。もちろん親友にも見せたことがない。見た目がえぐいとかそういうことではなくて…気持ち的に後ろ向きになるから自分でも見たくない。完治したわけではないし怖くなるから。以前恋人に見られたときはパニックになって相手の顔面にビンタしてしまった。強引なの嫌だったしそのまま別れたからいいけど。

椿「…お腹どうかしたの?」
鈴「…15㎝くらいの隠せない傷跡があるので」
椿「…そっか、聞いてごめんね。わかったよ」
晄「はい、これで面接は終わり。お疲れ様でした♡」
朔「結果は後日受かった場合僕たち3人のうち誰かから電話させてもらうからドキドキしながら待っててね。落ちちゃった場合は書面で送らせてもらうよ」

ありがとうございました、失礼致します。と一礼して部屋を出ようとしたとき御器谷椿と目が合った。椿は俺を見て微笑み声は出ていなかったが『またね鈴』と言った。俺の人生変わるかもしれないと思った瞬間だった。
お昼過ぎに来たのだが事務所を出たころにはもう夕方になっていてコンビニで適当に飲み物を買って自宅に帰った。どうなるのか不安を感じながらデザインの課題をひたすらこなした。



〈面接後の同期組〉
晄「椿今の子気に入ったの?」
椿「うん、すごく面白かった。一緒にやりたい」
朔「ふふ、この事務所のいいところって技術面より中身を評価してくれるところだよね」
晄「椿主体のユニットなんだし椿が気に入った子じゃないと前と同じことになっちゃうもんね」
椿「…あんな環境は作りたくないししたくないから。アイドルに興味持ってくれたし汐野鈴合格、二人ともよろしくね」
晄「僕もあの子いいと思うよ。いろんな面で椿を支えてくれそうだし勘が鋭いし周りを見れていたし。初めてじゃない?知る材料になる面接が楽しいなんて言った子」
朔「うん、面白い考えしてるなって思った。ほかの子は緊張したとか俺たちと話せて云々とかが多かったからね。ありがたいことだけど俺たちが探しているのはファンじゃなくて対等にやっていける人だから…。どこにでもいる顔なんていってたけど彼、すごく綺麗な顔してたしルックス面でも全然問題ないし俺もいいと思う」
椿「ダンスよりも声特化だと思うから指導は朔になるかな。そのときはお願いね」
朔「うん、わかったよ。…これで3人決まったね。あと2人」
晄「面接…あと残り5人か…ふふ、どんなユニットになるか楽しみだね」
椿「うん、ちょっと楽しくなってきた」





数日後。たまたま学校が休みでのんびり課題を終わらせていた。ネックレスと耳飾り…イヤリング、ピアスまたはイヤーカフの作品制作が課題。材料を買いすぎてしまったようで提出用とは別にもう一組出来上がった。ネックレスとイヤーカフ。黄色、白、オレンジの三色でひし形の飾りがついている。うまく形になり満足した俺は余分に作った方を身に着けた。自分で作ったものは市販のものよりも愛着がわき心が満ち足りる。

アクセサリーを付け終わった丁度その時、スマホが振動し音楽が流れだす。電話…やはりきたかと電話に出ると予想通りあの人物からだった。

椿「…もしもし、汐野鈴君…?」

鈴「はい、鈴です。御器谷さん…ですよね?ということは…」

椿「ふふ、うん。御器谷椿。…そう、合格おめでとう。」

やはりあのときの『またね』はそういう意味だったようで。結局友人の言ったとおりになってしまった。面接をした時から興味が出たのは本当でなってみるのもいいな、と思っていたが友人の言う通りというのは癪だった。

鈴「…ありがとうございます」

椿「?嬉しくない?」

鈴「いえ、そんなことは。…なんとなく合格してそうだなと思っていたので」

椿「”なんとなく”ね。…結構あからさまにアピールしたんだけどな、俺」

鈴「”またね”はとどめでしょう?心の準備しとけよ、的な」

椿「…そんなとこ。3日後に顔合わせと詳しい説明するから事務所に来て、1時に」

鈴「わかりました。…あ。」

椿「?何かあった…?」

鈴「顔合わせの前に相談したいことがあるので一度事務所行こうと思うんですけどいつなら大丈夫ですか」

椿「…晄と朔に言っておく。明日の午後でいい?」

鈴「大丈夫です」

椿「うん、じゃあそれで。俺仕事で顔合わせの日まで予定空けられないから。・・・じゃあまた」

失礼します、そういって電話を切った。応募総数がどれくらいだったのかはわからないがかなりの数だっただろう。その中から選ばれてしまった。あまりにも淡々と物事が進み過ぎて実感が湧かなかった。電話相手は芸能人の御器谷椿、明日会うのはトップアイドルNova…3日後から自身がアイドル…勝手に応募されて仕方なく受けたものだったが不思議とマイナスの感情は生まれることなく…寧ろこれから面白いことが起こりそうな、そんな気がしている自分がいる。

鈴「さぁて…これからどうなるかな・・・♡」