毎週放送されるNovaとBudの合同番組、今日はその収録日だ。いつもと同じように番組スタッフ、出演者全員で段取りを確認し本番を始める。本日の司会進行担当は汐屋雀と桃江晴太。二人の明るい声が広いスタジオに響き、番組観覧の抽選で選ばれたお客様たちの拍手と黄色い声もわぁっと鳴りだす。普段と同じように楽しく賑やかに番組は進行されていくのだと思っていた。
”いつもと同じ”台本を渡されていた御器谷椿だけは。
普段通りスムーズに収録は進んでいき椿のもらった台本上ではもうすぐエンディング。曲が流れてお別れの挨拶を…という所で汐屋雀は口を開く。
「はぁ~い!それではここからは特別企画~!まだ終わりじゃないよ椿ぃ♡」
ピンポイントで名指しされドキリとしながら目をまん丸にさせる。台本と違う…と声に出さずに心の中で呟き自身の周りに座るメンバーの顔を見る。ソワソワと今か今かと期待するようなそんな顔。自分以外は何が起きるのか知っているようだ。この番組は時たまイタズラやドッキリを仕掛けることがある。それを仕掛けるのは雀だったり草介だったり晴太だったり。大体は草介が風舞に仕掛けるものが多いが。きっと今回のターゲットは自分だったのだろう、そう思い身構えていると雀がパチンと指を鳴らす。それと同時に照明が落ちあたりが暗くなる。
「思った以上に真っ暗だね、朔大丈夫?」
「うん、平気。でも手は繋いでてね」
小声で話す二人の会話が耳に入る。他にもガラガラと何かを押してくる音も。きっとドッキリを仕掛ける為の物だろうと思い椿がじっと席で座って待っていると今度は晴太が口を開く。
「それでは皆さん準備はいいっすか!?いくっすよー!!せーの!!」
掛け声とともに照明がパッと付き、先ほどまで椿の周りに座っていたメンバーたちは正面に立ちクラッカーを構え、その後ろにいるお客様たちはライブの時のように赤いうちわやライトを持っている。
『椿(君/さん)、誕生日おめでとう~~!!」』
拍手とクラッカー、各所から聞こえるおめでとうという声。沢山の音に包まれクラッカーから飛び出たリボンやキラキラしたテープが降り注ぐ。
収録日である今日8月11日はBudのリーダー、御器谷椿の誕生日だ。
突然の事に驚いて動けずにきょとんとしている椿を見て晄が吹き出す。
「っふふww椿の顔…w」
「もう晄くん、笑っちゃだめだよ…ふふ」
つられて隣に立っていた朔も笑いだす。どうやら余程おかしな顔をしていたらしい。こういう時って…鳩が豆鉄砲を食ったような顔…だっけ。
明るくなった周囲を改めてよく見るとスタジオ中自分のイメージカラーが散りばめられていた。王冠や薔薇、似顔絵や視聴者からのおめでとうメッセージの張り出されたホワイトボード。誕生日おめでとうの飾りつけもしっかりされている。きっと今日の為に皆が用意してくれていたのだろう。椿に気付かれないようこっそりと。
「…皆、ありがとう」
驚きと感動で声が震えてしまった。少し涙ぐみながら微笑んでいる椿を見て今度は周りが驚きそしてサプライズが成功したことを確信し喜びを各々表現する。
「椿くん喜んでくれたっすか!?皆で計画してたんすよ!改めておめでとうっす!椿くん!」
可愛いユニットメンバーの末っ子、晴太が駆け寄り椿に抱き着く。きゃぁと客席から黄色い悲鳴も一緒に上がり静かにしていた他のメンバーも順に口を開き始めた。
「おめでとう椿、すごいね一瞬で赤一色だ」
「ふふ、Budの皆が計画して俺たちやお客さんも協力させてもらったんだよ」
「風舞が練習の時ケーブルに引っかかって転びかけてたのでもしかして…なんて思ってたんですよ。よかったね風舞こけなくて^^」
「ちょ、そういうこと言わなくていいよ!これ放送されるんだからね!?また俺のところに草メッセたくさん来ちゃうじゃん!!」
「まぁまぁ二人とも!まだやる事あるんだからぁ~♡類瀬も早く早く」
雀に手招きされ自然組の少し後ろにいる藍が前に出る。
「…っす。おめでとうございます椿さん。言い出しっぺは雀さんと桃っすけど椿さんに何かしたいと思ってたのは同じなんで…」
と後ろに持っていたものを差し出す。赤、黄、青、緑、紫、桃。六色の花が綺麗に整えられた素敵なブーケ。Bud。椿の何より好きなもの。
藍に続いて風舞も口を開く。
「椿さんは何が欲しい、とかあまりいう人ではありませんし皆で何を贈ろうか悩んだんです。Novaのお二人や恋慈さん、マネージャーさん…いろんな人に聞いて回ったんですけど何がしたいとか欲しいとか誰もわからなくて…」
「でも、Novaのお二人が大事な事教えてくれたのでこれに決まったんです」
締めくくろうとする風舞のセリフを草介が取り風舞ににんまり顔を送る。風舞はわかってたよ、と顔で返す。Nova二人の方を見ると二人は顔を合わせてからふっと笑い
「俺たちが言ったのは皆知ってる当たり前の事だよ」
「”椿はBudの皆が大好きで仕方ないんだよ”ってそれだけ。欲しいものとは違うけれどね」
「自分たちがこれをリーダーの椿にって少し気恥ずかしいけど、いつもの感謝の気持ちとこれからもよろしくの思いを込めて受け取ってよ」
最後に雀が話し、貰ったブーケを椿はよく見る。花には詳しくないがそれぞれのメンバーらしい花。きっと皆でわいわい話し合いながらこの六種六色の花を決めたのだろう。その場に自分はいなかったが和気あいあいと花を選ぶ姿は容易に想像できた。
「…うん、皆大正解…凄く嬉しい…素敵な誕生日をありがとう」
「ふふふ、椿ぃ。誕生日といえばってもの忘れてない?」
既に胸がいっぱいになっている椿に雀が楽しそうに声を掛ける。スタッフさーんと呼びかけるとカラカラとカートが音を立てながら運ばれてくる。そこには大きな四角い苺のケーキ、猫のアイシングクッキーと中心に六色の薔薇、そしてチョコのプレートに”Happy Birthday Tsubaki”の文字。最初からある程度切り分けられているタイプなのかうっすらと線が見える。
「わぁ!!猫もいるっすよ!!可愛いっす~!!」
「でか…」
「凄い…おっきいケーキだね…食べきれる…?」
「ちょっとちょっと、最初からそこの心配しないでよww」
「ケーキのデザインは汐屋さんと僕がしたんですよ、猫のモデルは勿論御器谷さんちの猫たちです。食べづらいでしょう^^」
「もう、草介ってば…ケーキは天くんと千隼くん、確か恋慈さんと京真くんも手伝ってくれたって言ってたかな。二人がデザインはお楽しみだから~~って今の今まで見せてくれなくて…」
「勿論僕たちも今初めて見た。立派なケーキだね、天監修なら味も楽しみだ」
ケーキの感想を言い合い撮影を終わらせ出演者8人でケーキを食べる。8人で分けても全然なくならない。かなり張り切って作ってくれたようでスポンジの中のクリームが違ったりナッツが入っていたり切り分けてある小さいブロックことに変化がある。ふと、甘いものが苦手な雀は大丈夫なのかと気になり雀を見やると妙に赤い層が入っているケーキを食べていた。隣で食べている藍がありえねぇ…と目で言う様な顔で雀を見ている。実際に数秒後には言うだろう。どうやら天にあらかじめタバスコ入りのブロックも作ってもらっていたらしい。…持ち帰るときは気を付けよう。
ある程度各々の皿が空になったのを確認した草介が今度は口を開く。
「さぁて、美味しいケーキも食べ終わりましたが…今年度から誕生日の人は叶えられる望みなら一つなんでも叶えるって話でしたけど、御器谷さん。考えてあります?」
言われるまで椿はすっかり忘れていた。今年度から、というのはつまり1月誕生日だった草介からではなく6月誕生日の雀からはじまった事。確か雀は”Budの皆で夏祭りに行きたい”と言いこの夏の特番で夏祭りをBudで回れることになった。このことを考えると番組もある程度は協力してくれるのだろう。
さて、何がいいか。とても素敵な誕生日だったからもう十分だよ、と言ってもきっと引き下がってはくれないだろう。椿は思考を巡らせ考え一つだけ思いつく。
「…そう、だな…少し子供っぽいお願いでもいい?番組の特集とかにはできないと思うんだけど…」
「いいんすよ!椿くんの誕生日なんすから!!なんすか!?」
すぐそばに居た晴太が大きな目をキラキラとさせて自分の口から語られる望みを今か今かと待っている。
「…また、8人でお泊りしたいな。あれ、楽しかったから」
そう告げると皆ふふっと笑い椿らしいと口をそろえて言う。
自身で考えても結局椿は皆と一緒に居たいという願いが一番強いのだ。
皆につられて椿も満面の笑みを浮かべ一緒に笑う。
ソロ時代からは考えられないような願いだ。
朔程ではないとはいえ、椿も人と関わる事を避け一人でいることを好んでいる節があった。
それがどうだろう。今では皆と居たいだなんて。
ユニットを組めと言われたときは絶望のどん底に落とされたようなそんな気持ちになったのを覚えている。大勢の中から選ぶという重役を直接背負う恐怖、そして選んだメンバーのリーダーになり活動するという責任。この二つがとても重かった。自分には向いていない、できるわけがないと何度も嘆きそれを晄や朔にぶつけた事もある。
でも本当は。
本当は、ユニットというものに憧れがあった。
ユニットの絆、仲間との絆というものに憧れが。以前の自分にはできなかったそれに夢と憧れを持っていた。自分で気付かないように隠したそれを二人には既に見破られていたようであの時は諭されてしまった。
…現在。どうだろう、過去の自分。過去の御器谷椿。あの時がなかったら、目の前にいるこの5人とは知り合えなかった。
汐屋雀。
全体を見ることが出来るユニット内のバランサー、人の感情を敏感に感じ取り寄り添うことが出来る。2歳しか違わないのにとても大人びてコミュニケーション能力の高い彼に何度助けられている事か。
酒々井風舞。
自ら主張する事は少ないが自分を持っており常に自分ができることを探している。最近はもっぱらいじられキャラだがその親しみやすいキャラクターと爽やかな笑顔が皆を惹きつけている。なんでもすぐにこなしてしまう才能は目を見張るものがある。
芥生草介。
強い意志を持ち決してブレない強さを持っている。一度前に進むと決めたら突き進む。人が出来ないようなことをやれる強さが草介にある。誰にも折られないし決して折れない。立ち向かう敵が誰であろうと真正面を向ける。その強さで皆を引っ張るときがある。本人はあまり自覚していないかもしれないが。一度、やめると言われたときはどうなる事かと思ったが草介も大事なメンバーの一人で欠けてはならない仲間の一人。
類瀬藍。
寡黙で自分と同じように口数は少なめだが誰より人を思いやる事ができる優しい心を持っている。誰かが傷つけば自身も傷つくような繊細さもある。人の気持ちが理解できる。言葉を紡ぎ支える雀とは違うタイプの支え方ができる。ぶっきらぼうに見えても沢山の事柄を考え答えを導きだそうとしているのを知っている。彼と自分は少し似ているから。
桃江晴太。
エネルギッシュで笑顔が可愛いユニットの最年少。ユニットのムードメーカー。その場にいるだけで明るくなる、悪いものを全て跳ね返して照らしてくれるような才能がある。彼はきっとそれを才能とは呼ばないと言いそうだけれどそのはじけるような素敵な笑顔が何度自身を立ち上がらせてくれたか。
まだ上げきれない程の魅力を持つ彼らと出会えた。
椿は思う。彼らに巡り合えた事自体が素敵なプレゼントだと。
椿は確かに物欲はない。誕生日に子供がねだるようなものは、ない。
あの頃夢見た憧れも今はもう目の前に。憧れももう叶ってしまっている。
しかし、彼らと紡ぎたい願いと夢はある。
これからもBudが6人で居続けられますように。
6人でずっと笑い合えますように。
憧れで終わるのではなくその先へ。他でもないこのメンバーで先に進んでいけますように。
先を進むNovaに6人で追いついて、追い越せますように。
皆とこれからも過ごせますように。
大好きなユニットの5人と先輩である同期2人に感謝を込めて。
「俺と出会ってくれてありがとう、最高の、誕生日だよ」
【The scenery that longed(憧れの風景)】
最後ぐだってしまったしうまくまとめられなかった感が強いけれど椿視点でBudやNovaに向けたクソでか感情を少し公開しました。Budの皆に出会えたことが最高の祝福で幸運で…椿は本当に5人が大好きで仕方がないんだなという事が伝われば私は満足です。6人で素敵な風景をこれからも見続けるでしょう。
椿誕生日おめでとう。これからもBudのリーダーとしてキングとして自分に自信をもってがんばっていってね。本当におめでとう。
2021/08/11
”いつもと同じ”台本を渡されていた御器谷椿だけは。
普段通りスムーズに収録は進んでいき椿のもらった台本上ではもうすぐエンディング。曲が流れてお別れの挨拶を…という所で汐屋雀は口を開く。
「はぁ~い!それではここからは特別企画~!まだ終わりじゃないよ椿ぃ♡」
ピンポイントで名指しされドキリとしながら目をまん丸にさせる。台本と違う…と声に出さずに心の中で呟き自身の周りに座るメンバーの顔を見る。ソワソワと今か今かと期待するようなそんな顔。自分以外は何が起きるのか知っているようだ。この番組は時たまイタズラやドッキリを仕掛けることがある。それを仕掛けるのは雀だったり草介だったり晴太だったり。大体は草介が風舞に仕掛けるものが多いが。きっと今回のターゲットは自分だったのだろう、そう思い身構えていると雀がパチンと指を鳴らす。それと同時に照明が落ちあたりが暗くなる。
「思った以上に真っ暗だね、朔大丈夫?」
「うん、平気。でも手は繋いでてね」
小声で話す二人の会話が耳に入る。他にもガラガラと何かを押してくる音も。きっとドッキリを仕掛ける為の物だろうと思い椿がじっと席で座って待っていると今度は晴太が口を開く。
「それでは皆さん準備はいいっすか!?いくっすよー!!せーの!!」
掛け声とともに照明がパッと付き、先ほどまで椿の周りに座っていたメンバーたちは正面に立ちクラッカーを構え、その後ろにいるお客様たちはライブの時のように赤いうちわやライトを持っている。
『椿(君/さん)、誕生日おめでとう~~!!」』
拍手とクラッカー、各所から聞こえるおめでとうという声。沢山の音に包まれクラッカーから飛び出たリボンやキラキラしたテープが降り注ぐ。
収録日である今日8月11日はBudのリーダー、御器谷椿の誕生日だ。
突然の事に驚いて動けずにきょとんとしている椿を見て晄が吹き出す。
「っふふww椿の顔…w」
「もう晄くん、笑っちゃだめだよ…ふふ」
つられて隣に立っていた朔も笑いだす。どうやら余程おかしな顔をしていたらしい。こういう時って…鳩が豆鉄砲を食ったような顔…だっけ。
明るくなった周囲を改めてよく見るとスタジオ中自分のイメージカラーが散りばめられていた。王冠や薔薇、似顔絵や視聴者からのおめでとうメッセージの張り出されたホワイトボード。誕生日おめでとうの飾りつけもしっかりされている。きっと今日の為に皆が用意してくれていたのだろう。椿に気付かれないようこっそりと。
「…皆、ありがとう」
驚きと感動で声が震えてしまった。少し涙ぐみながら微笑んでいる椿を見て今度は周りが驚きそしてサプライズが成功したことを確信し喜びを各々表現する。
「椿くん喜んでくれたっすか!?皆で計画してたんすよ!改めておめでとうっす!椿くん!」
可愛いユニットメンバーの末っ子、晴太が駆け寄り椿に抱き着く。きゃぁと客席から黄色い悲鳴も一緒に上がり静かにしていた他のメンバーも順に口を開き始めた。
「おめでとう椿、すごいね一瞬で赤一色だ」
「ふふ、Budの皆が計画して俺たちやお客さんも協力させてもらったんだよ」
「風舞が練習の時ケーブルに引っかかって転びかけてたのでもしかして…なんて思ってたんですよ。よかったね風舞こけなくて^^」
「ちょ、そういうこと言わなくていいよ!これ放送されるんだからね!?また俺のところに草メッセたくさん来ちゃうじゃん!!」
「まぁまぁ二人とも!まだやる事あるんだからぁ~♡類瀬も早く早く」
雀に手招きされ自然組の少し後ろにいる藍が前に出る。
「…っす。おめでとうございます椿さん。言い出しっぺは雀さんと桃っすけど椿さんに何かしたいと思ってたのは同じなんで…」
と後ろに持っていたものを差し出す。赤、黄、青、緑、紫、桃。六色の花が綺麗に整えられた素敵なブーケ。Bud。椿の何より好きなもの。
藍に続いて風舞も口を開く。
「椿さんは何が欲しい、とかあまりいう人ではありませんし皆で何を贈ろうか悩んだんです。Novaのお二人や恋慈さん、マネージャーさん…いろんな人に聞いて回ったんですけど何がしたいとか欲しいとか誰もわからなくて…」
「でも、Novaのお二人が大事な事教えてくれたのでこれに決まったんです」
締めくくろうとする風舞のセリフを草介が取り風舞ににんまり顔を送る。風舞はわかってたよ、と顔で返す。Nova二人の方を見ると二人は顔を合わせてからふっと笑い
「俺たちが言ったのは皆知ってる当たり前の事だよ」
「”椿はBudの皆が大好きで仕方ないんだよ”ってそれだけ。欲しいものとは違うけれどね」
「自分たちがこれをリーダーの椿にって少し気恥ずかしいけど、いつもの感謝の気持ちとこれからもよろしくの思いを込めて受け取ってよ」
最後に雀が話し、貰ったブーケを椿はよく見る。花には詳しくないがそれぞれのメンバーらしい花。きっと皆でわいわい話し合いながらこの六種六色の花を決めたのだろう。その場に自分はいなかったが和気あいあいと花を選ぶ姿は容易に想像できた。
「…うん、皆大正解…凄く嬉しい…素敵な誕生日をありがとう」
「ふふふ、椿ぃ。誕生日といえばってもの忘れてない?」
既に胸がいっぱいになっている椿に雀が楽しそうに声を掛ける。スタッフさーんと呼びかけるとカラカラとカートが音を立てながら運ばれてくる。そこには大きな四角い苺のケーキ、猫のアイシングクッキーと中心に六色の薔薇、そしてチョコのプレートに”Happy Birthday Tsubaki”の文字。最初からある程度切り分けられているタイプなのかうっすらと線が見える。
「わぁ!!猫もいるっすよ!!可愛いっす~!!」
「でか…」
「凄い…おっきいケーキだね…食べきれる…?」
「ちょっとちょっと、最初からそこの心配しないでよww」
「ケーキのデザインは汐屋さんと僕がしたんですよ、猫のモデルは勿論御器谷さんちの猫たちです。食べづらいでしょう^^」
「もう、草介ってば…ケーキは天くんと千隼くん、確か恋慈さんと京真くんも手伝ってくれたって言ってたかな。二人がデザインはお楽しみだから~~って今の今まで見せてくれなくて…」
「勿論僕たちも今初めて見た。立派なケーキだね、天監修なら味も楽しみだ」
ケーキの感想を言い合い撮影を終わらせ出演者8人でケーキを食べる。8人で分けても全然なくならない。かなり張り切って作ってくれたようでスポンジの中のクリームが違ったりナッツが入っていたり切り分けてある小さいブロックことに変化がある。ふと、甘いものが苦手な雀は大丈夫なのかと気になり雀を見やると妙に赤い層が入っているケーキを食べていた。隣で食べている藍がありえねぇ…と目で言う様な顔で雀を見ている。実際に数秒後には言うだろう。どうやら天にあらかじめタバスコ入りのブロックも作ってもらっていたらしい。…持ち帰るときは気を付けよう。
ある程度各々の皿が空になったのを確認した草介が今度は口を開く。
「さぁて、美味しいケーキも食べ終わりましたが…今年度から誕生日の人は叶えられる望みなら一つなんでも叶えるって話でしたけど、御器谷さん。考えてあります?」
言われるまで椿はすっかり忘れていた。今年度から、というのはつまり1月誕生日だった草介からではなく6月誕生日の雀からはじまった事。確か雀は”Budの皆で夏祭りに行きたい”と言いこの夏の特番で夏祭りをBudで回れることになった。このことを考えると番組もある程度は協力してくれるのだろう。
さて、何がいいか。とても素敵な誕生日だったからもう十分だよ、と言ってもきっと引き下がってはくれないだろう。椿は思考を巡らせ考え一つだけ思いつく。
「…そう、だな…少し子供っぽいお願いでもいい?番組の特集とかにはできないと思うんだけど…」
「いいんすよ!椿くんの誕生日なんすから!!なんすか!?」
すぐそばに居た晴太が大きな目をキラキラとさせて自分の口から語られる望みを今か今かと待っている。
「…また、8人でお泊りしたいな。あれ、楽しかったから」
そう告げると皆ふふっと笑い椿らしいと口をそろえて言う。
自身で考えても結局椿は皆と一緒に居たいという願いが一番強いのだ。
皆につられて椿も満面の笑みを浮かべ一緒に笑う。
ソロ時代からは考えられないような願いだ。
朔程ではないとはいえ、椿も人と関わる事を避け一人でいることを好んでいる節があった。
それがどうだろう。今では皆と居たいだなんて。
ユニットを組めと言われたときは絶望のどん底に落とされたようなそんな気持ちになったのを覚えている。大勢の中から選ぶという重役を直接背負う恐怖、そして選んだメンバーのリーダーになり活動するという責任。この二つがとても重かった。自分には向いていない、できるわけがないと何度も嘆きそれを晄や朔にぶつけた事もある。
でも本当は。
本当は、ユニットというものに憧れがあった。
ユニットの絆、仲間との絆というものに憧れが。以前の自分にはできなかったそれに夢と憧れを持っていた。自分で気付かないように隠したそれを二人には既に見破られていたようであの時は諭されてしまった。
…現在。どうだろう、過去の自分。過去の御器谷椿。あの時がなかったら、目の前にいるこの5人とは知り合えなかった。
汐屋雀。
全体を見ることが出来るユニット内のバランサー、人の感情を敏感に感じ取り寄り添うことが出来る。2歳しか違わないのにとても大人びてコミュニケーション能力の高い彼に何度助けられている事か。
酒々井風舞。
自ら主張する事は少ないが自分を持っており常に自分ができることを探している。最近はもっぱらいじられキャラだがその親しみやすいキャラクターと爽やかな笑顔が皆を惹きつけている。なんでもすぐにこなしてしまう才能は目を見張るものがある。
芥生草介。
強い意志を持ち決してブレない強さを持っている。一度前に進むと決めたら突き進む。人が出来ないようなことをやれる強さが草介にある。誰にも折られないし決して折れない。立ち向かう敵が誰であろうと真正面を向ける。その強さで皆を引っ張るときがある。本人はあまり自覚していないかもしれないが。一度、やめると言われたときはどうなる事かと思ったが草介も大事なメンバーの一人で欠けてはならない仲間の一人。
類瀬藍。
寡黙で自分と同じように口数は少なめだが誰より人を思いやる事ができる優しい心を持っている。誰かが傷つけば自身も傷つくような繊細さもある。人の気持ちが理解できる。言葉を紡ぎ支える雀とは違うタイプの支え方ができる。ぶっきらぼうに見えても沢山の事柄を考え答えを導きだそうとしているのを知っている。彼と自分は少し似ているから。
桃江晴太。
エネルギッシュで笑顔が可愛いユニットの最年少。ユニットのムードメーカー。その場にいるだけで明るくなる、悪いものを全て跳ね返して照らしてくれるような才能がある。彼はきっとそれを才能とは呼ばないと言いそうだけれどそのはじけるような素敵な笑顔が何度自身を立ち上がらせてくれたか。
まだ上げきれない程の魅力を持つ彼らと出会えた。
椿は思う。彼らに巡り合えた事自体が素敵なプレゼントだと。
椿は確かに物欲はない。誕生日に子供がねだるようなものは、ない。
あの頃夢見た憧れも今はもう目の前に。憧れももう叶ってしまっている。
しかし、彼らと紡ぎたい願いと夢はある。
これからもBudが6人で居続けられますように。
6人でずっと笑い合えますように。
憧れで終わるのではなくその先へ。他でもないこのメンバーで先に進んでいけますように。
先を進むNovaに6人で追いついて、追い越せますように。
皆とこれからも過ごせますように。
大好きなユニットの5人と先輩である同期2人に感謝を込めて。
「俺と出会ってくれてありがとう、最高の、誕生日だよ」
【The scenery that longed(憧れの風景)】
最後ぐだってしまったしうまくまとめられなかった感が強いけれど椿視点でBudやNovaに向けたクソでか感情を少し公開しました。Budの皆に出会えたことが最高の祝福で幸運で…椿は本当に5人が大好きで仕方がないんだなという事が伝われば私は満足です。6人で素敵な風景をこれからも見続けるでしょう。
椿誕生日おめでとう。これからもBudのリーダーとしてキングとして自分に自信をもってがんばっていってね。本当におめでとう。
2021/08/11
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